コンセプトは ”どうしたら面白くなるか?” 改善提案名人に挑戦! どうしたら易しく面白くなるか
 もっと楽にならないか
第3話 ナガラ作戦 改善提案名人に挑戦!《目次》
イントロダクション
第1話 チリツモ作戦
[1]夏の初めの間一髪 第2話 ナクス作戦
第3話 ナガラ作戦
[1]夏の初めの間一髪
[2]朝寝坊から学ぶこと
 もそもそ動く布団の中からにゅーっと手が伸びてきて、目覚し時計をつかみ、再び布団の中へ・・・。
 ガバッと起き上がったのはわれらが上杉君である。
「あちゃー。寝過ごしたー」
 急いで支度してアパートを飛び出た。
 小さな缶コーヒーを手にしながら駅への道を走る走る。腕時計をちらっと確認して
「まいったなぁ」
誰もが一度は経験するお馴染みの光景だ。
 どんなに厳しい状況でも努力はしてみるもの。なんとか始業の時刻には間に合った。
 息を整えて職場に入る。ちょうど朝礼が始まるところだ。
「・・・というわけで、季節も良くなって気持ちがゆるみがちになりますから、くれぐれもけがをしないよ
う気を付けて下さい。では、今日も一日がんばりましょう」
 ふぅ、ほんと、今日はもう少しで大けがをするところだったよ。それにしても本当にいい季節になってきたよなぁ。
 今日生産予定の部品配膳を済ませて、窓の外を眺める上杉君。
 初夏の明るい陽光の中で、グラウンドにところどころ咲いているタンポポの黄色がまぶしい。モンシロチョウが2匹ヒラヒラとくっついては離れ離れてはくっつき、あーのどかだなぁ・・・っと、いかんいかん仕事仕事!
「おい、今朝は間一髪だったなぁ」
織田課長がニヤニヤしながら声をかけてきた。
「あ、おはようございます。見てたんですかぁ、まいったなぁ」
「はっはっは・・・ところで、どうしたんだ、最近そのなんというか、あんまり提案が出てこないじゃないか」
「ええ・・・天候と同じで少々気がゆるみがちで・・・」
「そこでだ、そろそろ改善の基本その2を教えてあげよう」
「はあ、お願いします」
「うん、そのヒントは今朝の上杉君の行動にある」
「・・・・・・?」 
[3]体が知っている
[4]困った、速すぎる
[5]バランス感覚を忘れるな
[6]全体の中の個を見る
第4話 トリカエ作戦
第5話 ヤサシク作戦
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[2]朝寝坊から学ぶこと
 今朝の行動と言っても、ただ遅刻をしないように必死になっていただけで別にいつもと変わったことをしたわけでゃない。
「なんというかその、普段は朝起きてから家を出るまでどれくらいかかっているのかな?」
 出勤前の行動というのは、誰でも似たりよったりのものだ。まず、起床して床上げに5分、洗面5分、食事10分、用便5分、着替えに5分、これに新聞を読んだりテレビを見たりなどの雑用が10分加わって40分・・・と、まあこんな感じのところではないか。
「ところで、今朝は何分かかったんだ?」
「いやあ、今朝は驚異的な速さでしたよ。なんと、半分の20分!生産性2倍向上なぁんちゃって・・・へへへ」
「そこがポイントだ。なんというか、いつもと同じ
事をやっているのにどうして半分の時間で済むんだ?」
「うーん、そりゃもう大変な努力です。着替えをしながらパンをかじって、トイレに入りながら歯を磨いて、猛スピードで玄関を走り出て・・・そうか」
上杉君、ポンと手を打って何かに気付いたふうだ。
「猛スピード、つまり動作をめちゃくちゃ速くすればいいってことか」
織田課長は処置なしというような顔をして、
「上杉、おまえ、ほんとに天候のせいでネジがゆるんでしまったみたいだなあ。めちゃくちゃ速くというのは改善じゃないぞ。改善というのは作業を楽にすることなんだ」
と言われても、今朝のどこに改善のヒントがあるのか、上杉君にはわからない。
「今朝、いつもの半分の時間で済んだのは、なんというか3つの理由があると思うんだ。
「まず、それぞれの動作がテキパキとしていたこと、次に普段やっていることを省略したこと、3番目に1つのことを別のことと同時にやっていたこと、だよね?」
小首をかしげながら、上杉君はこっくりうなずいた。
「1番目は、ほんの少しずつ動作を速くすると全体も速くなる、ということでこれはチリツモ作戦とおなじことだ。2番目は不要なことを省略する、ということでこれはナクス作戦だな。問題は3番目だ」
[3]体が知っている
 寝坊した朝に、すでに学んだ改善の2作戦が隠れていたので、上杉君はビックリだ。こうなると、3番目の理由というのが気になる。
「今朝のケースでは、なんというか、もう一度チェックする必要があるんだがね。確かに改善の基本の一つではあるんだ」
「んもう、課長、もったいぶらないで早く教えて下さいよ」
 織田課長、ニヤリと笑って、
「いいかい、着替えをしナガラ食事をし、食事をしナガラ天気予報を聞き、用足しナガラ歯を磨き・・・」
「わかった、ナガラ作戦だあ!」
「ふっふっふ、その通り。別名合わせ技とも言う」
「なるほどぉ、走りながらコーヒーを飲んだり、満員電車に揺れながら新聞を読んだり・・・、でも・・・」
でも、これはちっとも楽じゃないぞ、これでは改善にならないのではないか。
「待った待った、なんでもかんでもナガラで良いとは限らないよ。だから、今朝のケースだって見直しが必要と言ったんだ」
「ふむう、ちょっと面倒臭い作戦ですね」
「ところがね、ちょっと見てごらん。なんというか、作業者はみんな大したもんなんだよ」
と、上杉君のラインの作業者を指さした。

 クロちゃんが相変わらず竹中さんに何か質問しているな。竹中さんも最近はあきらめたのか辛抱強く応対している。でも、手を休めてはいない。
(手を休めていないだって!・・・つまり話をしナガラ手を動かしている!)
 そういえば、北条さんは手を動かしナガラ確認している。伊達さんは確認しナガラ組み立てている。今川さんは組み立てナガラ検査している・・・。
「そう、難しく考える必要はない。どんな仕事がナガラでできるかは、体が知っているんだよ。まず、自分でいろいろ試してみることだな・・・
「おっと、今日は会議があるのだった。いやほんとに申し訳ない。この続きはきっとまたあとでするよ、ほんと申し訳ない」
 このおっさん、話が終わるときはいつもこの調子だな。でも、ナガラ作戦か。これは考えてみる価値がありそうだぞ。
[4]困った、速すぎる
 ナガラ作戦で最も簡単なのは、両手を使うということだ。
 作業をよく観察してみると、利き手と反対の手が遊んでいることが結構多い。右手を使いナガラ左手も使うことができないか?まず、これで攻めてみよう。
 遊んでいるのでなく、左手が品物の保持のために止まっていることも多い。この場合は保持しなくても済むような工夫をしてみよう。
 同じパターンの応用で、手と足を同時に使えないか?目と耳はどうか?
 人間だけにこだわる必要はない。機械を使った作業の場合はどうだろう?機械に品物をセットした後、できあがるまでじっと待っているということはないだろうか?
 機械を動かしている間、別の作業を行う。これもナガラ作戦の基本パターンである。
「あるある、ナガラ作戦はかなり効果があるぞ」
 上杉君の改善提案が前にも増して出てくるようになった。
 ところが。
「上杉さん、私ヒマです。何をすればいいでしょうか」
という声があったかと思うと、
「上杉さん、こんなに沢山私一人では処理できません」
・・・これは、どういうことだ?
 ナガラ作戦でみんなの作業スピードが速くなってきたのは事実だ。
 なるほど、北条さんの作業は次の1個が流れてくる前に終わってしまうので、いわゆる手待ちになっている。
 次の工程の伊達さんも速くなってはいるのだが、前の工程ほどではないのでどうしても中間に仕掛品がたまってしまう。処理しきれないので箱に詰めて置いてある。
 前の北条さんの作業が速すぎるために、思いもよらないムダが大量に発生してしまった。
「上杉、これはどうしたことだ」
「あ、武田課長、すいません。改善したんですけどねぇ。おかしいな」
 武田課長は上杉君の上司。製造課の課長だからラインの異常にも敏感だ。
「一体全体、どんな改善をしたんだ?」
[5]バランス感覚を忘れるな
 上杉君の提出した改善提案は、大体のところ採用可の回答が返ってきた。
 なにが効を奏しているかというと、改善の効果を金額換算して示していることが大きい。チリツモ作戦で武田課長から学んだアドバイスを忠実に守っているのだ。
 それは別に問題ではない。
 ただ、チリツモでは一つ一つの改善規模がきわめて小さいために、金額換算してもさほど大きなインパクトにならなかったのが、ナクス作戦やナガラ作戦だと一筋縄ではいかない金額になってきているのは確かだ。
 現に改善提案を出し始めて半年になるが、この時点で上杉君の提案による改善金額は年間で200万円を超えている。大したもんだ。・・・しかし。
「なるほど、ナガラ作戦か。そういえば、そんな提案を出していたな」
「そうですよ、提案用紙にちゃんと課長の印もありますよ」
「どれ、もう一度見せてみろ」
 上杉君は提案用紙を手渡した。
「うーむ、そうか、こりゃまずいなあ。オレとしたことが大事なことを見落としていた」
「え、な、なんですか?」
「バランス感覚だよ」
「ばらんすカンカクゥ?」
「そう。それは改善を行う上で決して忘れてはならない感覚なんだ」
 ちょっと難しそうな話だ。

「ナガラは良い発想だよ。改善の4つの基本というのがあってな。その1つなんだ」
「あ、それ織田課長に教えてもらいました。まだ、2つまでしか教えてもらってないんですけど」
「そうか、上杉の参謀に生産技術の織田君がついていたのか、はっはっは、それじゃ、よく提案が出てくるはずだ」
「ただな、上杉。4つの基本を使うにしてもだ。その前提として考えておかなければならんことがいくつかあるんだ。バランス感覚はその中でも特に大事なことだな」
 基本のそのまたさらに前提なんていうものがあるのか。そんなこと考えてもみなかったなあ。
「上杉はこの提案を出す前にライン全体を眺めてみたか?」
「・・・いえ、でも1つの工程だけを見てても、いろいろ改善すべき点が出てくるものですから・・・」
 そう。1つの工程、1つの作業をじっと見ているだけで沢山の問題点が見えてくる。そこは改善の宝庫だ。このように考えることも前提の1つで、この点については上杉君もいつの間にか身に着けているようだ。
[6]全体の中の個を見る
 改善におけるバランス感覚とは何だろうか?
「よし、ストップウォッチを持って来い。ちょっと作業時間を計ってみよう」
 上杉君と武田課長が二人並んでラインの横に立った。
「半年前、こうやって二人で見たときは確か12秒で流れていたな」
「そうです」
「いいか、手待ちの時間を除いて1回だけ計ってみろ」
 先頭の今川さんの作業を見ながらストップウォッチを押した。
「10秒です」
「おお、改善効果が出ているな」
「へへへ」
 次の北条さんのタイムだ。
「7秒です」
「おお、これまた、ずいぶんと短縮したなあ」
同じように、次の伊達さんは9秒、・・・という結果が出た。
「・・・わかりました、バランスの意味が」
 各工程の時間にバラツキがあると、工程間に仕掛品がたまったり作業に手待ちが生ずる。上杉君はここの作業については十分に考えて改善を施したつもりだったろうが、
全体のバランスまで頭に入れてなかった。
 改善を行う場合には、対象となる物・事だけでなく、関連するところまで考えて全体の中の個を見るという態度が大事である。
「つまり、いくら1つの工程の作業時間を短縮しても、他の工程が同じように短縮されていなければ、かえって効率が悪くなってしまうということですね」
「そうだ。最初の提案のときも同じことを話したな」
「あのボツになった提案ですね、そう言えば忘れてました。でも、せっかくここまで短縮したのに、また元のやり方に戻すのももったいない気がするなあ」
「それはそうだ。そこでだ。改善の基本その3というのがある。そいつとナガラ作戦を併用してみると、少し見方が変わってくる。織田君に聞いてごらん」
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