コンセプトは ”どうしたら面白くなるか?” 改善提案名人に挑戦! どうしたら易しく面白くなるか
 もっと楽にならないか
第1話 チリツモ作戦 改善提案名人に挑戦!《目次》
イントロダクション
第1話 チリツモ作戦
[1]まずは質より量で [1]まずは質より量で
[2]ものの位置を変えるだけで良い?
[3]整理・整頓は「チリツモ作戦」で
[4]となりの迷惑も考えてくれ
[5]共同戦線を張るべし
 上杉君は電装品製造会社に入社して4年目。第三工場の組立ラインのサブリーダーをつとめている。若手だけれど、そろそろ中堅と言われる頃だ。
 去年のQCサークル活動発表大会を見に行ったときのこと。
 ひと通り各工場代表の発表が終わったあと、優秀発表サークルとその年の優秀改善提案者の表彰が行われた。別に感心するほどのことではないと冷めた目で眺めていたが、上杉君とは同期で親友の斎藤君が壇上に紹介されると、思わず、
「ええっ!あいつが?」
と声をあげてしまった。
 でも、あいつの職場は少量品のラインで、問題が山積しているから改善点も見つけやすいもんな。それに、うちの職場の場合は提案してもリーダーがやる気ないから取り上げてくれないからなぁ・・・ちょっぴり羨ましいけど、おめでとう。
その斎藤君、工場では「事務局泣かせ」と呼ばれている。
 とにかく、普段から仕事のやり方について文句が多い。あんまり、うるさいものだからリーダーに煙たがれて
「文句は改善提案用紙に書いてくれ」
と言われてしまった。
 文句のほこ先を自分から提案事務局に変えてしまったリーダーは少し問題だが、斎藤君にとってはそれが幸いした。
[6]否定しないでよ
第2話 ナクス作戦
第3話 ナガラ作戦
第4話 トリカエ作戦
第5話 ヤサシク作戦
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改善提案名人に挑戦!…がんばる現場リーダー上杉君の改善奮闘記
 最初は不平や不満、何でもかんでも提案用紙に書いて出していた。それも毎日のように。
 たまりかねた事務局から、
「提案するのはいいが、どうしたら良くなるのかきみ自身の意見を書いてくれ」
と注意されてしまった。
 しかし、この程度ではメゲないのが斎藤君。それならばと、金がかかろうと技術的にムリであろうとお構いなしに改善案を書き始めた。中には、SF映画まがいのアイデアすらある。ほとんどがボツだったが、あまりにユニークなので事務局の人も呆れてしまい、逆に彼の提案を見るのが楽しみになってしまったくらいだ。
 さて、下手な鉄砲数打ちゃ当たる。そんな提案ばかりでも第三者が見れば実現可能なものもある。いや、発想だけを取り出してみれば簡単にできるものも結構あるみたい。
 そんなことをくり返している内に、斎藤君はなんとなく改善提案のコツをつかんでいったようだ。
 QC大会の帰り、上杉君は一杯やりながら斎藤君の体験談を聞いた。二人で飲むときはいつも上司の悪口を肴にしているのに、今日は珍しくマジな話に熱が入っている。
[2]ものの位置を変えるだけで良い?
 斎藤君はそんなに飲める方ではないが、QC大会で表彰されたことも手伝って今日はすこぶる上機嫌である。
 斎藤君によると、改善なんていうのはタテのものをヨコにするだけで良いのだという。
 そんなに簡単に考えて良いのか?どうも上杉君には納得できない。それに改善というのは、不良が出たときとか危険で難しい作業があるときにやるものではないのか?
「そりゃそうかもしれないけれど、それじゃあ上杉は現状のままで満足しているの?」
「満足なわけないだろう。でも、オレのラインは以前からプロジェクトだなんだかんだで結構手を加えているからなぁ。もうあまり改善のネタがないんだよ。重箱のスミをつついてまで改善なんて言ったらみんなから総スカンくらっちゃうしなぁ」
「ま、オレおまえのラインは見たことないからわからないけどさ。ただ、提案件数を増やして賞金稼ぎをするつもりならこんな手もある、という話さ」
 斎藤君は真っ赤になった顔でそう言うと、バーテンに紙と鉛筆を頼んだ。
「まず、箱から部品を取って手元に持ってきて組み立てるという作業があったとする。その箱を10センチ手前に置くようにしよう。そうすると大体0.1秒くらいの時間短縮になるんだな」

「0.1秒だって!?ばかばかしい、それのどこが改善なんだ?」
「いいから話は最後まで聞け。部品箱に手を伸ばして部品を持ってくるのだから往復で、
 0.1×2=0.2〔秒〕
そんな作業で1日500個の製品を作るとしよう。
そうすると、
 0.2×500=100〔秒〕
        =1.7〔分〕
となる。
年間で260日出勤するとして、
 1.7×260=442〔分〕
の改善ということになるわけだ」
「それがどうした?」
 斎藤君、しょうがないなという顔で、
「いいか、1分100円のコストがかかると考えてみれば、年間で4万4千円のコストダウンだ。0.1秒削減を100ヵ所やってみろ、チリツモで400万だぞ」
「あっ・・・!」
と、しばらく沈黙があった後、斎藤君はふらふらと立ち上がって外へ出て行こうとした。
「どうした?」
「いや、ちょっと高級な計算をして悪酔いした」
[3]整理・整頓は「チリツモ作戦」で
 月曜日、上杉君は職場に帰ってから考えた。
 酔っ払っていたせいか、どうも斎藤君の話はマユツバのような気がする。でも理屈の上では、「チリツモ作戦」(チリもツモれば山となる)で確かに年間400万円のコストダウンとなる。そこで、物は試し、改善提案用紙に同じような内容を書いて出してみた。
 数日後、事務局から回答が返ってきた。こんなことが書いてある。「ライン全体を見て、もう少しよく検討された改善提案をして下さい」
「はは、やっぱりこんなんじゃ採用してくれないよなぁ」

そう言って、提案用紙を丸めてゴミ箱に捨てようとした。そこに通りかかった武田部長。
「おっ上杉、改善提案なんて珍しいな。どれ見せてみろ」
「勘弁して下さいよ。めちゃくちゃな内容なんですから」
上杉君の言葉を無視して、課長は読みつづける。そして、おもむろに顔を上げると、
「悪くないじゃないか。着眼点はかなりのもんだよ」
「またまた、課長、からかわないで下さい。それなら、なぜボツなんですか?事務局のコメントを読むと、まるっきりお話になっていないみたいな書き方ですよ」
「ふむ、そんなふうにも見えるな。ただ・・・これでは改善になっていないというのも確かではあるがね」
 武田課長のいわく、着眼点としては合格、改善点としては不合格なのだそうだ。
「まず、きみが整理・整頓を目的にこの改善を提案したならば、50点あげても良い。でも、単純な手の動きだけでなく、物の保管の仕方や作業台・装置
の位置にも気を付けて欲しいな」
 物を近くに置くということは、いわば作業場所をコンパクトにまとめるということだ。これは、整理・整頓するということと同じことである。
 反対に考えれば、整理・整頓すると物が取り易く作業もやりやすいし、間違いも少なくなるということ。
 つまり、物の置き方に限らずそういう見方で考えていけば、まだまだ重要な問題が見出せるはず、ということだ。
 これが、着眼点としてはGOODであることの理由。では、改善提案としてはなぜ不合格なのだろうか?
[4]となりの迷惑も考えてくれ
 上杉君は武田課長に友達の斎藤君からもらったヒントのことを話した。
「なぜ、斎藤君の提案は取り上げられて、うちのラインではダメなんですか?」
「うむ、斎藤君のところのように作業者がそれぞれ別個の仕事をしているところでは、確かに400万のコストダウンになるんだが、きみのところは5〜6人で流れ生産をしているだろう。そういう職場では1つの工程だけを改善して、いくら時間短縮しても意味がないんだ。・・・わかる?」
 そう言って上杉君のラインの方に歩きはじめた。
 上杉君のいる組立ラインは5人の作業者が流れ作業で製品を仕上げている。バランスが取れていてムダな動きがないように見える。そのラインを目の前にして、「何秒に1個仕上がっているのかな?」
「大体、12秒くらいですかね、今」
「ということは、5人の作業時間はそれぞれ12秒で平均しているということだね」
「そうです」
「そこで、きみの提案のように改善して最初の作業者の時間を、たとえば11秒に短縮したとする。しかし、あとの工程は12秒でしか作れないから、結局、物ができるサイクルは12秒で同じだ。
「しかも先頭が早いから、2番目の人は追い着こうとして忙しくなるし、間に合わなくなると物がたまってしまうことになる。これはまずいね」
「そうか、改善のつもりが改悪になっているんだ・・・」
 成程、自分の提案がボツになったのはそういうことだったのか。要するに5人の作業全部を改善しなければ効果は出て来ないんだな。
「・・・面倒臭いなぁ、改善って」
「待て待て、そう気を落とすことはない。それじゃ、1つばかり上杉君のところに効果的な改善の方法を教えてやろう」
「どんなふうにやればよいのですか?」
[5]共同戦線を張るべし
 武田課長によれば、流れ作業が行われていない斎藤君の職場でも同じ手を使って、成功したのだという。
「それはだな、改善はひとりでやるな、ということだ。きみがいくら0.1秒の改善を進めようとしても、きみの目で見える範囲には限界がある。ましてや、ライン全体を見ようとしてもそんな余裕ある?
 それは当たっている。実際、サブリーダーとはいっても、現実にはラインの中に入って作業しなければならないのだから、実質的には作業者と同じだ。忙しくて頻繁に改善提案なんか出せるわけがない。
「だけど、1つくらいの提案ならなんとかなるな」
「はぁ、そりゃまぁ・・・」
「それをみんなに出してもらう。いいか、0.1秒の改善というのは1人で提案しても大して効果はないが、ラインのメンバー全員で出せばこれはばかにできない。きみのところ
だったら6人いるから、まず、
 0.1×6=0.6〔秒〕
の改善を進めよう。それをもっと広げて係全体にすれば20人、工場全体にすれば70人で共同戦線を張ることだ。それだけでもう、4万4千円の70倍で300万になる」
「・・・・・・」
「それから0.1秒なんてケチケチしないで、もっと大儲けできるところが沢山あるぞ。たとえば、作業台の横に置いてある部品に手を伸ばすのに0.5秒かかっている。それから、一歩足を踏み出すのに0.6秒、立ち上がったり座ったりには4秒もかかる」
 そう、手元の物を近くするだけでなく、作業台や装置と台車の位置、作業場所と棚との距離というふうに職場全体でとらえても、同じことがいえるのだ。また、立ち作業・座り作業の是々非々を議論するよりも、立ったり座ったりの動作をなくすためにはどうするかを考えることが大事なのである。
 いずれにしても、それらのごく身近な改善をみんなでやれば、相当の効果が期待できることは間違いないようだ。
「・・・理屈はわかりました。でも、僕がその音頭をとるなんてできないです」
「もちろん、それはオレの役目だがね」
「それと・・・もう一つ問題があると思うんです」
[6]否定しないでよ
 なんでも言葉で言うのは簡単なこと。実際はいろいろな障害があって思い通りには行かないものである。
 上杉君もそんなことを何回か経験していて、キレイ事を聞いてもかえってシラケてしまうようだ。
「課長の言われたことをみんなに話しても、多分提案なんか出さないと思うんです」
「なんでだ?たかが0.1秒の改善だぞ」
「まず提案用紙に書くのが面倒臭い。それに、出したところで大抵はボツになってしまうからヤル気が起こらない。字が汚いとか文章が作れないからと言って出さないのがオチですよ」
「しかし、きみは今回出したじゃないか。なぜだ?」
いや、斎藤君の話を聞いてちょっと遊んでみただけですよ。それがなかったら、僕だってあんまり出す気はないもんなぁ。何か言うとすぐ、それはムリだとか下らないなんて帰ってきますからね。文句言うヒマがあったら1つでも多く物を作れ、なんてね」
 実際、そういう職場は少なくないのではないか。反面、提案件数が少ないと言っては作業者の尻を叩いて、ムリヤリ数だけ出させようとする。そういうところの上司や提案事務局ほど、「部下に能力がない」とか「勉強不足で困る」とボヤいている。
「たとえ下らない提案だと思っても、一応は認めてほしいんです。最初から否定してほしくないんですよ」
「そのとおりだな。提案が出てきた以上はその背景になにか問題があるわけだからな」
 そして、提案というのはむしろ改善への第一歩と考えるべきだ。ポイントが多少ズレていても、その内容を安易に否定せず上手に育てていくことが大切だ。そのような対話を繰り返して職場のレベルアップをはかるのが改善提案の初期の段階では必要である。少なくとも、提案者のヤル気をなくすようなやり方はすべきでない。
「ただ、オレの方としても言いたいことはあるぞ。もっとしつこく出せよ。たまに1個や2個の提案を出されても目に止まらないからなぁ」
「えー面倒臭いなぁ」
「だから、1人でやるなって言っただろうが」
「そうでしたネ」
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