コンセプトは ”どうしたら面白くなるか?” 改善提案名人に挑戦! どうしたら易しく面白くなるか
 もっと楽にならないか
第5話 ヤサシク作戦 改善提案名人に挑戦!《目次》
イントロダクション
第1話 チリツモ作戦
[1]4つ目の基本は「S」 第2話 ナクス作戦
第3話 ナガラ作戦
第4話 トリカエ作戦
第5話 ヤサシク作戦
 ナクス作戦・ナガラ作戦・トリカエ作戦に続く第4の基本とはなんだろう? この辺でちょっとだけタネあかしをしておこう。
 賢明な読者はすでにおわかりかと思うが、改善の基本とはよく「ECRS」と呼ばれているものである。
 うーむ、耳慣れない言葉が出てきたなあという人がほとんどかもしれない。意味不明の横文字が出てくると頭が痛くなって寝込んでしまう?・・・・・・まさか。
 ECRSのEは Elimination(エリミネーション)のEで、これは日本語に直すと「排除」という意味。次のCは Combination(コンビネーション)のC、「結合」のことである。そしてRは Rearrangement(リアレンジメント)、つまり「再整理」ということだ。これらの訳語でもまだまだわかりにくいので、ここでは「ナクス」、「ナガラ」、「トリカエ」という日常語にして紹介したわけ。
 さて、最後のSである。これは Simplification(シンプリフィケーション)のS、「単純化」ということだ。要するに誰でも簡単にできるようにやさしくするということ。ここではズバリ「ヤサシク作戦」と呼ぶことにしよう。
 改善の専門書や事例集を見ると、生産方法を変えたり治具化したりして作業を簡単にした例が一杯載っている。興味がある人はこのような文献を読んでほしい。

 ・・・なんて言うと手抜きしているように思われるかな。でも、ここで具体的な改善例をいちいち並べてもあまり参考にならないのだ。
 たとえば、この手の文献を沢山購入して本棚に並べているという人がよくいる。買うときは参考にしようと思っても、いざじっくり中身を読んでみると改善対象や状況の違いからほとんど役に立たない場合が多い。いや、役に立たないと思い込んでいるケースが多い。何故か。
 というのは、ほとんどの場合こうした改善例をそのままマネしようとするからなのだ。もちろんそれでうまくいく場合もあるが、こういう本を読むときには事例をマネするだけではなく、そのような改善にいたった考え方・進め方を学ぶべきなのである。
 ヤサシク作戦のココロはそんなところにある。
[1]4つ目の基本は「S]
[2]「ヤサシク作戦」のポイントは
[3]ヒントはあちこちに
[4]とらわれるな・ちゃかすな
[5]遠目と近目
[6]そして自働化へ
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[2]「ヤサシク作戦」のポイントは
 木下君に誘われて草野球の練習に参加し始めた上杉君。運動不足とストレス解消のつもりで始めたことが発想の転換にもつながり、今や絶好調である。
 ところで、これが第4の改善の基本そのものだと武田課長に言われて、上杉君はキョトンである。単刀直入に聞いてみた。
「改善の基本その4とはなんですか?」
「ヤサシク作戦、つまり作業を単純にしてやさしくするということだ」
「へへっ、なぁんだ、当たり前のことじゃないスか」
木下君が横からチャチャを入れる。
「いや待て、ナクス作戦も当たり前のことだけど奥が深かった。なにかありますね、課長」
「ふ、するどいな、上杉。そのとおり、ヤサシク作戦は結果としては簡単にすることなんだが、そこまでいたる過程が大事なんだ。つまり、どのようにして発想の転換をはかるか、どこからヒントを得るか、どうしたらアイデアにつながるか」
「なるほど、で、どういうポイントに注意すれば良いんですか?」
「ポイントって?」
「ですから、ナクス作戦やナガラ作戦のときのような進め方のポイントですよ」
 武田課長、この質問に少々困ったような顔をして、
「ポイント?ポイントねぇ、あるようなないような・・・」
「なーんスか、それ。また随分といい加減じゃないっスか」
またまた木下君が横から口を出す。
「木下、おまえちょっと黙ってろ」
「うーむ、例としては動作の数を少なくするとか、動作距離を短くする、制約条件を取り除く、重力を利用する、治具化するなど、いろいろあるんだがね。それだけでヤサシク作戦を言い切っているわけではないんだな。どう説明しようかな・・・」
「うーむ」と武田課長がうなれば、上杉君、木下君も「うーむ」と腕組みする。
 どうもヤサシク作戦が難しくなってしまったようだ。これでは笑うに笑えない。
[3]ヒントはあちこちに
 上杉君とにらめっこしていた武田課長、思いついたように
「よし、じゃ、今までの上杉の改善提案を振り返ってみよう。ナクス作戦は何がヒントだった?」
 そういえば、ナクス作戦はグラウンドの脇の物置小屋から思いついた作戦だった。ナガラ作戦は遅刻ギリギリ間一髪セーフから、トリカエ作戦は野球のトレードからのヒントだった。いずれも職場の改善とは関係ないところからの発想だった。
「それそれ、ヤサシク作戦も、ヤサシクするためのヒントはどこにでもあるということなんだ。つまり、作戦遂行の手順みたいなものがないというか・・・いや、ヒントを得るための手法はいろいろとあるんだが、すべてにそれが使えるというわけでもないんだ。
「うーん、これは難しいなぁ」
「要するに発想を豊かにすることと、アイデアをバカにしないことが必要なんだ。そうだな・・・上杉は改善を面白いと思うか?」
「・・・正直言って、最初は改善提案なんて重荷でした。仕事をこなすのが最優先で考えるヒマもなかったし、なにかやってもほとんど効果なかったですから」
「今はどう?」

「今は面白いです。あれこれ試行錯誤して、ふっとアイデアが浮かんだときの快感と、それが実際にできて、みんなが喜んだときの達成感は最高ですね。特に、なんでこんなことに今まで気付かなかったんだろうっていうときは、なんとも言えないですね」
「ヤサシク作戦の一番のポイントはそこんところなんだよ」
 ヤサシク作戦のポイントをあえて並べるなら、まず第一に直面する問題にじっくり取り組むこと。悩んで悩み抜いてどうにも解決策が出ないようなら、全く違うことをやって脳ミソを休ませる。本気で取り組んでいるなら、そんなときでも潜在意識の中に問題が残っているものだ。そうすると、ひょんなきっかけで解決のヒントをつかむことがある。
 パァっと目の前が開けていくようなハッピィな感じ、そんな経験をしたことが誰にでもあるのではないか。
[4]とらわれるな・ちゃかすな
 ここで読者に一つ問題を出してみよう。鉛筆とメモ用紙を用意してほしい。
 メモ用紙にコップの絵を描いてみよう。
 さて、あなたはどんなコップを描いただろうか?多分、ほとんどの人が挿し絵のような絵を描いたと思うが、いかがだろうか。
 決してそれが悪いというわけではなく、ただ常識的な人であるということが証明されただけで、心配はご無用。
 ところで、これ以外のコップを描いた人はいないだろうか?へそまがりで描いても良い。そういう人はヤサシク作戦の達人になる見込みがあると言える。
 達人は、たとえばこんな絵を描く。つまり、1つ円を描いただけ。確かにこれも真上から見たコップだと言えばそのとおりだ。しかもヤサシクされている!
「なぁんだ、くだらない。なんだかバカにされたみたいっスよ」
とちゃかしてはいけない。そういうアタマのやわらかさ、先入観にとらわれないものの見方・考え方、これが第二のポイントと言えるだろう。
 どうもピンと来ない人には、前の設問をこういうふうに変えてみよう。100個のコップの絵を描け。
 このようにすると、挿し絵のようなコップとただの円とでは、描くための手間と時間がかなり違う。つまり、ヤサシク作戦による効果がはっきりと現れていることに気付くはずである。
「だから、ヤサシク作戦そのものには手順とか公式みたいなものがなく、ポイントと言っても、はっきりこれがそうだとは言えないんだよ」
「よくわからないけど、わかりました」
「ブレ−ンストーミング
っていうアイデア発想法を知っているかな?」
「はぁ、言葉だけは・・・」
「そうか、それなら今度みんなでやってみようかな。その中に4つの原則というのがある。つまり、『批判禁止』、『自由奔放』、『質より量』、『悪乗り大歓迎』というものなんだ。これはね、改善案を考えるときのコツでもあるんだよ」
「なぁるほど。その原則を使ってヤサシク作戦をやってみるんですね」
「そのとおり。ところで、ナクス・ナガラ・トリカエ・ヤサシクと並べたときには、大事なことが1つある」
「それはなんですか?」
[5]遠目と近目
 改善の4つの基本、ナクス・ナガラ・トリカエ・ヤサシクを利用して問題解決をはかろうというときに注意しなければならないことが1つある。
 それは、必ずこの順序で作戦を立てるということだ。
 まず、全体を見渡して不要なものをナクス。次に一緒にできるものがないかを探してナガラにする。また、トリカエによって改善できないかを考える。こうして、マクロ的に解決できるところがなくなったら、個々についてミクロ的に見てヤサシクする。
 一通り手を打ったら、もう一度マクロの目で見て
全体のバランスをチェックする。もちろん問題があれば再度、ナ・ナ・ト・ヤをくり返す。
 ・・・という具合に、問題を遠目で見たり近目で見たりしながら、ナ・ナ・ト・ヤの順を何度もくり返すことが大切なのだ。
「こうして改善していくと、上杉のラインで少量品も流せるようになる」
「そんな、とてもムリですよ。少量品を流すとなると、段取りに時間がかかって数量が上げられなくなります」
「そうスよ。やっぱし、少量品は別の場所で作った方が良いと思います」
 武田課長、ニヤッと笑って、
「ほら、もう先入観にとらわれている。本当にムリなのかな?」
「・・・んなこと言ったって、ムリなものはムリっスよ。口で言うのは簡単スけど、実際は絶対、問題起きますよ。そうなっても知らないスからね」
 木下君はかたくなに拒否の姿勢である。
「・・・ま、とにかく、ナ・ナ・ト・ヤでチャレンジしてみますか」
とは上杉君。
「その調子その調子。あせらずじっくり取り組むことと、発想の転換をはかること。これで行けば必ずやれると思うよ」
「そうですね。なんとかなるでしょう。たとえ、少量品がムリでも、段取り改善をやればやっただけの効果がありますからね」
 そう、そんなふうに楽観的に考えることもヤサシク作戦のポイントの1つだろう。やる前にムリだと決め付けるのは改善を放棄しているのと同じである。どんな困難があっても、どこかに必ず解決の糸口が見つかるものである。
 その感覚は上杉君のように改善を面白がっている人には、不思議とわかるものなのだ。
[6]そして自働化へ
 上杉君のライン改善は艱難辛苦をきわめた。なにしろ、1個の注文でも1000個の注文でも全部同じように流すというのだ。当然、周囲から反発の声が上がったのもムリはない。
 しかし、上杉君は良くがんばった。自らはナクス・ナガラ・トリカエ・ヤサシクの4作戦を駆使して、またラインのメンバーはチリツモ作戦で細かい改善をくり返す。ようやく、10個以上の注文なら流せるメドがついてきた。立派なものである。
 作業は目立って簡略化され、誰でもできるラインとなった。人が交代しても1個当たり7秒というサイクルタイムは変わらない。
「次は、単純作業のロボット化や自働化ラインの設計だな」
と武田課長。
「まさか。まだまだですよ」
「いや、もうかなりその可能性があるぞ。よく、ラインの生産性を高めるために、最初から機械化を考える奴がいるが、本当の機械化はこんなふうにまず人の作業のムダをなくしてからやるべきなんだ」
「お金をかけて機械化しなくても結構効率は上がるもんなんですね」
「そう、そしてこれだけ改善すると機械化も楽なんだよ。作業がシンプルになっているからね」
「なるほど。よぉし、次は自働化か・・・」
 ・・・そして再びQCサークル活動発表大会の時季がやってきた。
 残念ながら上杉君のラインの改善事例発表はできなかったが、改善提案件数で上杉君は見事第二位となり、グループ提案件数では堂々第一位となって表彰を受けたのである。一年前はまさか自分が表彰台に立つとは思いもよらなかった。
 賞を手にした上杉君に、武田課長と織田課長がかけ寄る。
「やったなぁ、上杉。おめでとう・・・どうした浮かない顔して」
「くやしいです。こんなに頑張ったのに、やっぱり斎藤には負けちゃった。あいつは本当に改善提案の名人ですよ」
「元気を出せよ。改善というのはいつもチャレンジじゃないか。なぁに、いつかきっと斎藤君に勝つ日も来るさ。改善提案名人に挑戦だよ」
「・・・そうですね。頑張ります!」
そう言って、名人に握手を求めに行った上杉君の後にさわやかな風が残った。

―おわり―
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