コンセプトは ”どうしたら面白くなるか?” 改善提案名人に挑戦! どうしたら易しく面白くなるか
 もっと楽にならないか
第4話 トリカエ作戦 改善提案名人に挑戦!《目次》
イントロダクション
第1話 チリツモ作戦
[1]なぞのヒント 第2話 ナクス作戦
第3話 ナガラ作戦
第4話 トリカエ作戦
[1]なぞのヒント
 梅雨に入って、外は連日の雨。
 そんなうっとおしい天気とは裏腹に、上杉君のラインは新風が吹き込んでいる。
 木下君という若手が入ってきたのだ。実はここに来て急にお客さんからの注文が多くなり、上杉君のラインも一人分の工数不足ということで、資材課から出向してきたのである。木下君は社内野球チームのピッチャーもやっているスポーツマンである。
 また、時を同じくして竹中さんが隣のラインに移り、代わりに前田さんがメンバーに加わった。やはり、おとなしい竹中さんにとってクロちゃんの質問攻めは重荷だったようだ。
 前田さんは竹中さんと同期の2年生。ショートカットでスラっと背の高い快活な女の子である。女子バスケットボールチームの選手なのだ。ニックネームはネネ。彼女ならクロちゃんとも気が合いそうだ。
 新しいメンバーが加わって、上杉君ラインの改善提案大進撃は続く・・・。
「あ、課長。ちょっと待って下さい」
 上杉君、早足でラインの横を通り過ぎようとしている織田課長に呼びかけた。
「やあ悪い悪い、この前の話の続きだろ?申し訳ない、ずっと出張だったんだ。わるい、いやほんとに申し訳ない。これからまた、お客さんのところに行かなければならないんだ。そうだな・・・しあさって、3日後には戻ってくるから、そのときに話そう。約束する」
と言って走り去ってしまった。
 まいったな。これでは、いつまでたっても改善の基本その3を聞けないぞ。
 ふーっとため息をついて窓の外を見る。よく降るよなぁ。頭の中までカビが生えそうだ。
 視線をラインに移す。ナガラ作戦前の状態に戻し
たので、今はよどみなく品物が流れている。しかし、これがベストでないことはわかっている。
「あ、そうそう、上杉君のところのね、前田さん。彼女がヒントだね。じゃ、ほんとに申し訳ない。行って来まぁす」
再び、突然現れたかと思うと、ネクタイを直しながら一言残して、織田課長は出かけてしまった。
 ネネちゃんか・・・。あっけらかんとして可愛い娘だ。彼女の何がヒントなんだろう?
[2]トレードは野球の作戦
[3]3つ目の基本は『トリカエ』
[4]試行錯誤と実験の繰り返し
[5]「合わせ技」と「連続技」
[6]現状はまだまだベストではない
第5話 ヤサシク作戦
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[2]トレードは野球の作戦
 週末の終業近く。外の雨も少し小降りになったようだ。
「んちゃース、先輩。なに困った顔してるんスか?」
 木下、お前は気楽でいいよなぁ・・・。改善提案もアイデアもボンボン出るときは楽しいんだけど、行き詰まると疲れるんだなぁ、これが。
「あんまり悩むと体に毒っスよ。明日は休みだし、たまにはブワッと・・・」
「酒か?」
「いや、オレ飲めないスから・・・、野球でもやって汗流すといいスよ」
 野球ねぇ。野球か・・・そうだな、たまには改善なんて忘れて体を思い切り動かすか。
「よし、今度いつ試合するんだ?」
「試合は来月からです。でも、もし明日天気なら朝9時からグラウンドで練習するんスけど、良かったら来ませんか?」
「オーケー、明日9時だな。よーし。グローブないけど貸してくれるよな」
「いいスよ。じゃ、待ってますよ」
 そして翌朝の上杉君。少し大きめのジャージー姿でグラウンドにやって来た。
「うーん、いい天気だ。梅雨の晴れ間ってやつだな」
「あ、先輩、おはよぉっス。早くこっち来てくださいよぉ」
「おおぅ、今行く」
 ベンチのところで木下君が手を振っている。ナインはみんなそろっているみたいだ。
「おはよぉっス」
「おはよぉっス」
「先輩、メンバー紹介しますよ、と言ってもみんな同じ工場のメンバーだから知ってますよね」
 違いない、ほんとみんな顔なじみだ。おや、一人見たことない奴がいるぞ。
「あ、こいつですか?こいつは第六工場の蜂須賀です。実はキャッチャーのうまい奴がいなかったんで、トレードしたんですよ」
 トレード!トレードだって!
「おはよぉっス。初めまして、蜂須賀です、よろしく」
「あ、ああ、どうも・・・」
 トレードか・・・トレードね・・・これだよ、トレードだよ。
 上杉君、練習に参加するのも忘れてニヤニヤしだした。
[3]3つ目の基本は『トリカエ』
「痛っ、いててて」
 普段、運動していないと翌日は筋肉が突っ張っている。少々足を引きずりながら、上杉君は出社してきた。
「先輩、おはよぉっス。先輩も歳ですねぇ」
「ばかいえ、木下より二つ上なだけじゃないか。あいててて」
 痛いけど、心地良い痛みだ。ほんとに汗はかくもんだ。
「上杉さん、おはようございまーす。大丈夫ですかぁ?」
 黒田さんと前田さんがキャッキャッ笑いながら朝のご挨拶。
「やあ、心配してくれてありがとう。やっぱり運動不足がたたってるよ、腹も出てきたしなぁ」
「今度、バスケットの練習にも来ませんか?」
「じょ、冗談はやめてくれ。体が持たないよ」
と言いつつも、悪い気ははしない上杉君。前田さんの顔を見ながらニンマリ。
(織田課長、わかりましたよ、ヒントってやつが)
 要するにこうだ。
 交換することによって効果を出すという作戦。竹中さんと前田さんが交換することによって問題解決をはかる。蜂須賀君がトレードされることによってチーム力が補強される。これらのヒントから、問題解決だけでなく、それ以上の効果を発揮させようというねらいであることがわかる。
 これを「トリカエ作戦」と言う。そして、これが改善の基本その3である。
「ふーむ、さて、何と何をトリカエるかだ」
 トリカエ作戦では、目の前の作業だけにとらわれるのではなくて、バランス感覚で全体を見ることから始めるのが大切だ。
 なぜなら、トリカエの前にナクスべき作業やナガラで解決できる問題があるかもしれないからだ。もしそういうものがあれば、そちらを優先して手をつけなければならない。改善可能な問題を残したままトリカエにかかってはならないのである。
 次に、全体の中で動かせるものと動かせないものとを見極める。
 たとえば、そこでなければできない作業と自由に移動できる作業はどれか?つまり、前の工程で後ろにもっていける作業はないか、その逆はないだろうか?あるいは、ラインから独立して行われているような作業はないだろうか?作業だけでなく、人・装置・工具についても同じように調べてみよう。
 こうして列挙された変動要素を机上で移動させてみよう。このとき、時間がかかりすぎるとか、手待ちが多いとか、不良手直しが多いといった問題のある工程を中心に考えながら移動させてみると良い。
[4]試行錯誤と実験の繰り返し
 ナガラ作戦で失敗した上杉君、新たに覚えたトリカエ作戦で汚名挽回をはかる。
 机の上にノートを広げて、一人でブツブツいいながらなにやら書き込んでいる。
 ときどき腕組みしては首をぐるりと回し、頭をかいてはノートに向かってふぅっと息を吐く。白い紙面をよく見たらフケが落ちているのだった。運動だけでなく、清潔にしてないと女の子にモテないぞ。
「・・・どうも、こういうデスクワークっていうのは苦手だなあ・・・」
と言いながら、またノートに向かってふぅっと息を吐く。
 あのとき、セオリー通りに改善したのにうまく行かなかったのは、作業者それぞれの担当作業だけでナガラをやろうとしたことが原因だった。このため、それぞれの作業時間が大きくばらついてしまい、結果として仕掛品や手待ちというムダを生んだのである。
 ここは、トリカエ作戦に基づいてまず全体を見通してみよう。
「まてよ、最後の工程で小さな包装箱を組み立てているけど、ここでやる必要はないかもしれないな・・・それに、A部品の外観検査も前の工程で行って問題はなさそうだぞ・・・」
 いいぞいいぞ、いい着眼点だ。
「・・・ということはだ。作業時間が短くなりすぎた北条さんのところでやってもらったらどうだろう・・・うん、ちょうどうまい具合だな・・・それから・・・」
 その調子その調子。
「・・・ありゃ、そうなると、最後のクロちゃんの作業が大箱入れだけになってしまった・・・まいったな・・・よし、もう一度やり直しだ」
そうそう、そうやって試行錯誤をくり返してみよう。
「ああ、やっぱしダメだあ」
 ガバッと起き上がって背もたれに寄りかかった。
また頭をかいてフケを飛ばす。
「うーん、どうしても一人中途半端になっちゃうんだよなぁ・・・」
 そこへひょっこり出張から帰ってきた織田課長が顔を出す。
「おお、どうやらヒントの意味がわかったみたいだな、さすがさすが」
「あ、お帰りなさい。それがですね、うまく行かないんですよ」
 ごちゃごちゃと書き込んだノートを見せて、これまでの検討経過を説明した。
「いい線行ってるじゃない、もうひと息だよ。机上で行き詰まったら試しに実験してみるのも必要だよ。その結果、なんというかその、新しいことがわかることがある」
[5]「合わせ技」と「連続技」
 実験は作業者に協力してもらうのもいいし、自分でやってみるのもいい。とにかく頭の中だけで改善を進めてはいけない。
 上杉君はさっそく自分で組み合わせた作業を試してみた。織田課長も出張でアドバイスできなかったお詫びに付き合ってくれるという。
「なるほど、やりやすいかどうか、うまくできるかどうかは実際にやってみないとわからないもんだな」
 こうして、一つ一つ改善案をチェックしていった。
 そして、ある事実に気が付いた。
「おかしいな、計算だと10秒になるはずなのに8秒しかかかってないぞ?」
「ふっふっふ、それがそのなんというか、机上計算と実際との違いだ。改善は頭でやるのでなく体でやるものなんだ」
 そう、よく「改善は頭が良くないとできない」なんて言う人がいるが、大間違いだ。改善は「より良くしたい」という意欲さえあれば、誰にでもできる。もしそんなことを口にする人がいたら、「改善なんてやりたくない」と宣言していると思ってよろしい。
 それはともかく。
「上杉君、武田課長からなにかアドバイスがあったんじゃない?」
「・・・そういえばナガラと併用すると思わぬ効果があるって・・・」
「その通り。ナガラは別名合わせ技とも言う。これとトリカエを上手に使い分けていくと、連続技というのもできるんだ」
「なんだか、柔道みたいですね」
「そうだよ、スポーツにはいろいろ改善の参考になることが多いんだな」
「へぇ、面白いなぁ。それで、連続技っていうのはどういうことなんですか?」
 たとえば、こんな場合はどうか。2つの工程があって、どちらも同じ工具を使う組立て作業が含まれているとしよう。
 このとき、1工程の中の作業でナガラが可能なら、まずそれをチェックする。
 もしうまく行かないなら、トリカエによって作業内容を交換し、工具作業を1つの工程にまとめてしまう。そうすると、すくなくとも工具のトリオキ(いちいち取ったり置いたりする動作)がなくなって、その分時間短縮につながるわけだ。
 つまり、連続動作による改善。
「なるへそ、しかもトリオキのナクスにもなってますね!」
「はっはっは、結局ナクスが基本の基本なんだけどね」
[6]現状はまだまだベストではない
 改善は体でやるもの。試行錯誤と実験をくり返してみることが大切だ。でも、少しばかり頭を使ってナクス・ナガラ・トリカエという改善の基本を利用してみよう。これだけでかなりの効果が得られる。
 上杉君のラインは、なんと1人省人化できてしまった!
 つまり、ナガラとトリカエの結果、最終工程で中途半端になっていた作業を他の工程に組み込んでしまったわけだ。
「やったじゃないか、上杉。機械化もしないで省人化できたなんて、工場長賞もんだな」
 武田課長も絶賛だ。もちろん悪い気はしない。が、
「いやぁ・・・実は、あまり苦労したっていう気がしないんです。
「つまり、もともと改善すべき点が沢山あったのに、今まで放ったらかだったからじゃないかって思うんですよ。
「考えてみれば、ナクス作戦もナガラ作戦もトリカエも、みんな当たり前のことですよね。こんな簡単なことでこれだけの効果が出るなんて、どこか間違ってますよ」
 ほんとにそうだろうか?
 上杉君のラインは、いわゆる量産型の流れ生産で、一見したところムダがあるようには見えないラインだった。その点でいくと、工程ごとに何個かまとめて作るダンゴ生産や、生産ロットの小さい個別生産型のラインと比べたら、かなり洗練されたラインであるとも言える。
 それでも基本に立ち返って見直すとまだまだ改善の余地はあったということだ。
「現状はベターかもしれないが、決してベストではない、ということだね」
「はいそうです」
「いいぞ、そういうふうに考えることが大事だ。上杉も最初の頃と比べてだいぶ変わったな。もうそろそろ、アドバイスされる立場からアドバイスする側に立つ必要があるかもな」
 武田課長はこう言いながら、こちらに近づいてくる木下君に目をやった。
「ちょっと待って下さい。まだ、織田課長から基本その4を教えてもらってないんですよ」
「ん?そうか、基本その4ね・・・」
「んちゃース、すいません。上杉さん、明日また練習あるんスけど、どうします?」
「なんだ、上杉、最近野球やってんのか」
「はっきり言って上杉さん、頭の使いすぎっスよ。だから、たまには汗でもかいてもらって、頭の中整理してもらわなくっちゃ、ね」
「そう、いつもと違うことをすると見方が変わって、簡単なヒントに気付くんですよね」
 武田課長、大声で笑い出して、
「それが、基本その4さ」
「え?」
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